複勝買いの男。否、複勝しか買わない男。

  競馬を通じて、話すようになった職場の先輩。仕事の話しはまったくしない。ひと回り以上も年上。彼は複勝しか買わない。なぜ?と聞く...若い頃から競馬にどっぷり。家なんて簡単に買えるくらい投資した。まったくこりない。気がつけばひと口馬主。馬主になって、レースを見たら一頭の馬だけに目がいく。俺の選んだ馬だ。勝てとは言わない。3着以内に飛んでこい...と。

  場外売場では、いつも決まったところに。出会うとお互い どちらかともなくコーヒーをおごりあった。いつも複勝馬券を手にじっと画面を睨む。ゴール。ニッと笑う彼の顔に前歯はない。もう他界して10年。